【ニューヨーク市長】急進左派のゾフラーン・マムダーニーが当選。しかしそれはMAGAトランプ派の敗北を意味するわけではない!【中田考】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【ニューヨーク市長】急進左派のゾフラーン・マムダーニーが当選。しかしそれはMAGAトランプ派の敗北を意味するわけではない!【中田考】

《中田考 時評》文明史の中の“帝国日本”の運命【第3回】

ニューヨーク市長選挙で当選したゾフラーン・マムダーニー(1991〜)

 

 2025年11月5日、ニューヨーク市長選挙でゾフラーン・マムダーニーが当選したとの報が世界を駆け巡った。メディアの報道ではアメリカのリベラル派の歓喜と熱狂、MAGAトランプ支持者の困惑と憤怒が伝えられえている。

 しかしゾフラーンの勝利は、リベラル派の勝利、MAGAトランプ派の敗北を意味するわけではない。勝利演説で「私はムスリムであり、移民の子であり、ニューヨーカーである」と自己の宗教的出自、ヒトの流動性を強調していることからも、ゾフラーニーのニューヨーク市長選挙当選は宗教地政学的にも極めて重要な事件である。

 しかしその詳細な分析は近日中に行うとして、取り敢えずその分析の理解の為の予備的考察として以下に(1)ゾフラーンのニューヨーク市長選における当選確定とトランプ氏の反応、(2)ゾフラーン・マムダーニーとは何者なのか、(3)ゾフラーン当選がいかに誤解されうるのか、の3点に絞って読者と情報と主要な論点を共有しておきたい[1]

 

(1)マムダーニー、ニューヨーク市長当選

 

 投票終了はアメリカ東部時間2025年12月4日20時(日本時間11月5日午前10時)であったが、11月4日21時30分に CBS NEWSが[投票総数2,055,921票、 得票率ゾフラーン50.4%,クオモ 41.6%,スリワ 7.1%]でゾフラーンの当選確定の速報を流した。

 5日0時51分にはニューヨーク市選挙管理委員会が、ゾフラーンが得票率50.4%で当選確定と発表した。

 それを承けて5日午前2時53分Newsweekが勝利演説全文を掲載、午前5時13分にはYahoo News / CBSがBrooklyn Paramount Theaterにおけるゾフラーンの「The future is in our hands(未来は私たちの手にある)、This is a mandate for change(「これは変化を求める委任状だ)」との支持者に向けての勝利宣言を放映した。

 報じられるところでは、ゾフラーンは以下のように述べ、自己の勝利の歴史的意義を強調し、社会正義と包摂を訴えている。

 《未来は私たちの手中にある、皆さん、私たちは政治的王朝を打ち倒した。権力は富裕層だけのものではないと証明した。それは倉庫で働く人々、配達員、介護ヘルパーのものであり、この都市を動かしているのは、所有している者ではなく、働いている者たちだ。 ―中略― この勝利は私一人のものではない。立ち退きに直面したすべての借家人、借金に苦しむすべての学生、生活賃金を拒否されたすべての労働者のものだ。これは住宅の正義、人種の正義、経済の正義のための変革への信任状だ。私たちは家賃規制、公共交通機関、包括的な育児支援のために闘う。私たちは沈黙せず、買収されることもない。 ―中略― 私はムスリム、私は移民の子、私は南アジア系、私はウガンダ系、私はニューヨーカーであり、私はここに属している。あまりにも長い間、私のような人々はこの国では“客人”だと言われてきた。今夜、私たちは言う――私たちは客ではなく、私たちはホストだ。私たちは構築者であり、私たちは指導者なのだ》[2]

 

ドナルド・トランプ(1946〜)

 

 トランプは、選挙前にゾフラーンが当選すればニューヨーク市への連邦資金を停止する、彼を逮捕、国外追放する可能性がある、ニューヨークに国家警備隊(the National Guard)を派遣する、などと恫喝していたが[3]、当選後は自らのSNSであるTruth Socialで「AND SO IT BEGINS!(…そして始まる!)」という4語の投稿を行っただけであり、直接的な批判や法的介入は避けつつも、今後の対立を示唆したにとどまっている[4]


[1]アメリカの代表的な日刊紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、2025年11月5日付の「NY市長にマムダニ氏当選、知っておくべき5つのこと」と題する社説を掲げているが、その五項目の要点は以下の通りである。①4日に実施されたニューヨーク市長選で当選したゾフラン・マムダーニー氏(34)は、過去100年以上で最年少のニューヨーク市長となる。またイスラーム教徒がNY市長に就任するのも初めてのケースとなった。②ゾフラーンは生活費の高騰を巡って若い有権者の共感を呼ぶ一方で、経済界に不安をもたらした。③ゾフラーンの選挙戦は社会主義を掲げる地元の政党が支えた。同氏は米国民主社会主義者(DSA)のメンバーだがDSAは当初、市長候補としてゾフラーンを支援することに消極的だった。だが最終的には2024年10月に開始された同氏の選挙運動を支援している。④ゾフラーンは学者と映画監督の息子としてウガンダのカンパラで生まれた。その後、父親のマフムード・マムダーニー氏がコロンビア大学の教員になった際、7歳でニューヨークのアッパーウエストサイドに移住した。⑤ゾフラーンはイスラエルに対する見解で大きな反発に直面した。また進歩的な政治に対するその他の批判も受けている。

[2] Cf., Jordan King, “Zohran Mamdani’s Victory Speech in Full”, News Week, 2025/11/05,
Zohran Mamdani, “Hope Is Alive”, The Nation, 2025/11/05, Renee Anderson, Jesse Zanger, “Zohran Mamdani claims victory in NYC mayor's race, promises "relentless improvement"” CBS NEWS, 2025/11/05.

[3] Cf., “Trump backs Cuomo, threatens to cut funds as New Yorkers expected to pick leftist Mamdani as mayor”, The STRAITS TIMES, 2025/11/04, “Mamdani tells Trump that New York is ready to fight after president’s threats fail to thwart voters” PBS NEWS, 2025/11/05,David Brennan, “Mayor-elect Zohran Mamdani says New York will resist Trump 'intimidation'”, ABC NEWS, 2025/11/05

[4] Cf., Bryony Gooch, “Trump issues four-word response after NYC mayor-elect Zohran Mamdani declares ‘mandate for change’”, INDEPENDENT, 2025/11/05.

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 納税者としては政治の要領の悪さがもどかしく悔しいかぎりである。

 私は「国力」というものの要件は経済力」、「軍事力」、そして「政治力」だと考えるが、これらの全てを備えた国家は、現在どこにも存在しない。

 (中略)

 そして日本では、疑いもなく政治力」がこれからのテーマである。

 「日本の政治に足りないものはなんだろう?」情報収集力? 国会の合議能力? 内閣の利害調整能力?  首相のメディア・アピール能力?  国民の権利を保証するマトモな選挙?  国民の参政意識やそれを育む教育制度?

 課題は随分ありそうだが、改革の糸口を探る上で、アメリカの政治システムはかなり参考になりそうだ。アメリカの政治にも問題は山とあるが、こと民主主義のプロセスについては、我々が謙虚に学ぶべき点が多いと思っている。

 (中略)

 本書では、行政府であるホワイトハウスにスポットを当てて同じテーマを追及した。「世界一強い男」が作られていく課程である大統領選挙の様子を描写することによって、大統領になりたい男や大統領になれた男たちの人間としての顔やフッーの国民が寄ってたかって国家の頂点に押し上げていく様をお伝えできるものになったと思う。 I hope you enjoy my book.」

(「はじめに」より抜粋)

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ALL ABOUT THE U.S. PRESIDENTIAL POWER

How much do you know about the worlds’s most powerful person―the President of the United States of America? This is the way how he wins the Presidential election, and how he rules the White House, his mother country, and the World.

<著者略歴>

高市早苗(たかいち・さなえ)

1961年生まれ、奈良県出身。神戸大学経営学部卒業後、財団法人松下政経塾政治コース5年を修了。87年〜89年の間、パット•シュローダー連邦下院議員のもとで連邦議会立法調査官として働く。帰国後、亜細亜大学・日本経済短期大学専任教員に就任。テレビキャスター、政治評論家としても活躍。93年、第40回衆議院議員総選挙奈良県全県区から無所属で出馬し、初当選。96年に自由民主党に入党。2006年第1次安倍内閣で初入閣を果たす。12年、自由民主党政務調査会長女性として初めて就任。その後、自民党政権下で総務大臣、経済安全保障大臣を経験。2025年10月4日、自民党総裁選立候補3度目にして第29代自由民主党総裁になる。本書は1992年刊行『アメリカ大統領の権力のすべて』を新装重版したものである。

 

 

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中田 考

なかた こう

イスラーム法学者

中田考(なかた・こう)
イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

 

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